mockats『曲げわっぱの道具箱』
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鳥取県の南東部に位置する智頭町は、面積の93%を山林が占めています。
かつて宿場町でもあったこの町の集落には、落ち着いた木造の低い建物が並び、のんびりした雰囲気がありました。
Cohanaにまつわるモノ・コト・バそして人から、日本のものづくりを伝えていく【Story】。
第6回は、『曲げわっぱの道具箱』の産地・鳥取のmockatsさんを訪ねます。
吉野と並ぶ良質なスギの産地、智頭町
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Cohanaの『曲げわっぱの道具箱』を作ってくださっている、曲げわっぱ職人の草刈庄一さん。お祖父様が大工の棟梁だったということで、小さいころから家には当たり前のように作業場があり、大工道具がたくさん置いてありました。多くの木と道具に囲まれて育ったものの、「子供の頃は特に木工に興味はなかったです笑。」という草刈さん。それくらい木や道具が、身近なものだったんですね。
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家具づくりから、曲げわっぱへ
20歳のある時、自宅の天井の張り替え作業をすることになったそうです。ご自身で作業をしてみると、意外にも難なく張り替え作業ができたことで、自分にもできるんじゃないかと木工活動を始めるきっかけとなりました。
それからどんどん木工に熱中していき、地元の家具を作る会社へ就職。木製家具や“あしもの”と言われる「机」や「椅子」を作るようになりました。mockats(モッカツ)さんの名前の由来は、まさに『木工活動』から来ています。
家具作りをしていた草刈さんが、どうして曲げわっぱを作ることになったのでしょうか。
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草刈さんのご自宅から少し離れたところに智頭農林高等学校があります。そこで曲げわっぱの技術を習う機会があったそうです。『習ったからには実践!』ということで、自宅でコツコツと曲げわっぱ作りを始めました。
家具や建材などの製作が中心の智頭町で、曲げわっぱ作りを始めたという草刈さんの話は話題となり、徐々に広まっていきます。注文も少しずつ増えて独立、現在の工房で曲げわっぱを中心に製作されるようになりました。
今では多くの注文に応えるべく、お母様も製作の一端の担っています。
厳選された貴重な材料
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曲げわっぱの材料に使える木材は一本の木からわずかしか取れません。しかも樹齢70~80年の木を使います。
草刈さんはその貴重さを「“マグロでいうところの大トロ”みたいなもんですよ。」とわかりやすく教えてくれました。
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木材は切り方によって、木目に違いが出ます。その違いにより、「柾目(まさめ)」(画像:左)/「板目(いため)(画像:右の手前から2枚目)」と呼ばれます。「柾目」は木目が平行に整った部分。木の中心により近い部分を切り出すため、1本からとれる量は少なくなります。
それでも曲げわっぱには、あえて「柾目」を使うそうです。見た目に美しいということもありますが、より水分や空気を通すので「柾目」の方が曲げわっぱには向いています。
曲げわっぱができるまで
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<曲げわっぱ側面>
木の厚みを揃える
(Cohana『曲げわっぱの道具箱』は厚さ8mm)
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端をカットし、幅を揃えていく
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表面を削り、きれいに仕上げる
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板の両端を薄く削る。
(側面を曲げたときの重なりの部分をほかと同じ厚みにするため)
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ステンレス製の大きな鍋に一晩漬け、
その後30分煮込み、型を使って何度かに分けて曲げていく。
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乾燥機を使い、丸一日かけて乾燥させていく。
(この工程は、別の場所でされているそうで、今回は見ることができませんでした。)
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<曲げわっぱ底面>
丸型のものは正円にカットする。
この機械は、木を丸型に切るためのもの。草刈さんの自作。
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微調整をして側面にはめ込めば、曲げわっぱの底側が完成。
言うのは簡単ですが、底板がぴったりはまるという技術がすばらしい。
すべての工程が、集中力と細かい技術。
同じ工程で、フタも作るので手間ひまはさらに倍以上です。
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Cohanaの『曲げわっぱの道具箱』は、ロゴの焼印を押し、
さらに別の工房で製作した「天板」と「刺しゅう枠」を取り付けて完成します。
木は“やっかい”。でも、そこが面白い。
木工の魅力とは何ですか? という質問に、「基本的に、木は“やっかい”なことばかりです。」と笑顔で話す草刈さん。置かれている環境が変われば、木の状態もまた変わって“木が暴れる”のだそうです。湿気を吸って伸びたり、乾燥して縮んだり、折れたり、反ったり、日に焼けたり。「本当に手がかかるけど、木が生きているということ。でも、そこが面白い。」と語ってくれました。
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そしてやっぱり『木目の色と美しさ』。それは、智頭杉の魅力でもあるそうです。
厳選された素材で作られた曲げわっぱを見ると、一目瞭然。特に曲げた部分は光沢があってとてもキレイです。
『木はごくごく身近なもの。ぬくもりもあって、いつも近くにある。』
智頭杉と道具に囲まれて育った草刈さんならではの、自然な言葉でした。
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木工活動3年目のこれから。
草刈さんは、曲げわっぱを中心にそれ以外の木工作品もたくさん作っています。自作の機械にも驚かされましたが、家具を作られていたこともあり、楽器のドラムを入れるケースなど大型のものも。いろんなジャンルでのものづくりにもチャレンジされていて、同世代の職人さんとコラボレーションして作品を作ることもあるそうです。今は、県内の木地師さん(※)の木工製品と曲げわっぱを組み合わせて新しい作品を進行中だそうです。
※木地師(きじし)…ろくろを使って木を削り出し、木工品を成形する職人さん。主に椀やお盆など
工房に気になる機械がありました…
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作業で出た“木くず”は、機械で集められるようになっています。糸のこで切ったあとの“木片”なども含め、ある程度たまると、近くの牛舎や工場で燃料として使ってもらうそうです。まだ少量かもしれませんが、ほかの産業にも利用され、智頭杉は地域の中で無駄なく使われています。
きっとこのようなひとつひとつの取り組みが、産業の潤滑油となっていくのでしょう。
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もともと建材として多く使われていた智頭杉の需要も、近年は減ってきているそうです。
「智頭町や智頭杉のことをもっと広く知ってもらいたい。」という草刈さん。
草刈さんの木工活動は、自然が豊かな智頭町と木目や色の美しい智頭杉の中に生きています。
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愛用品を見せてください
手袋
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“やっかい”な木と向き合う必需品。
mockats(モッカツ)
鳥取県智頭町にて、曲げわっぱや家具など木工品を製作。
智頭杉の魅力を知ってもらいたいと、日々新たな作品を開発中。
mockats HP https://www.mockats.com/